LoRaの通信距離と信号強度について調査しました。
調査結果サマリー
- 住宅地で、見通せる場所で4km、見通せない場所でも2.5kmの距離で通信可能だった。
- 帯域幅が狭いほど、拡散率が大きいほど可能距離は長くなるが、通信時間も長くなるため、適切な帯域幅、拡散率を選択する必要がある。
- 通信可能な距離、信号強度は帯域幅、拡散率の単純な関数ではなく、端末周辺の地形や建物の影響を強く受けるため、実際のIoTシステムでLoRa通信を使うためには、現地での実測が必要。
測定システムと測定方法概要
LoRa通信にはEASEL社製LoRa通信モジュール「ES920LR」を2個、対向で使いました。
LoRa通信モジュールの一つはESP8266で制御し、GPSモジュールと組み合わせて電池駆動の移動端末にしました。もう一つはRaspberry Pi3で制御し、固定端末にしました。
移動端末の場所を変えながら、GPSでその場所の緯度経度を取得し、緯度経度情報をLoRaで固定端末に送信しました。この時、帯域幅(bw)を62.5kHz、125kHz、250kHz、500kHzの4通り、拡散率(sf)を7から12の6通り、計24通りに変えながら通信し、帯域幅、拡散率と信号強度の関係を調べました。
送信出力は13dBm、アンテナは移動端末、固定端末とも920MHz用ダイポールアンテナを使いました。
固定端末は移動端末からの緯度経度情報を受信すると、その時の帯域幅、拡散率、信号強度を合わせてAmbientに送信し、記録しました。
測定システムの詳細は「Raspberry Pi3とArduinoのLoRa通信」をご覧ください。
測定結果(1)
住宅地での通信距離と信号強度の測定結果を示します。
具体的には世田谷の住宅地で、マンションの4階南側ベランダに固定端末を設置し、移動端末を持って南に移動しながら通信したものです。このマンションの南側はあまり高い建物がなく、視界も開けています。
上の地図は測定した場所とその地点での帯域幅125kHz、拡散率12の信号強度を色で示しています。移動端末と固定端末の距離は一番近いところが1mで、ここがほぼ固定端末の位置です。一番遠いところは固定端末から3670mの距離でした。一番近い場所と次に近い場所の2地点は移動端末のある場所から固定端末が見通せる場所でしたが、それ以外は住宅などに遮られて直接は見通せない場所でした。一番遠い場所は二子玉川の楽天本社ビルの30階で固定端末が見通せる場所、次に遠い場所は玉川高島屋の11階です。
帯域幅、拡散率と信号強度の関係
端末間の距離1m、800m、1640m、2510m、3670mの場所での帯域幅、拡散率、信号強度の関係です。信号強度はdBでマイナスの値ですが、グラフは信号強度を直感的に分かりやすくするために150足して表示しています。
固定端末から1mの場所では帯域幅による信号強度の違いはあまりなく、拡散率7の時に各帯域幅で若干信号強度が強い程度です。
固定端末からの距離800mの場所ではほぼ全ての帯域幅、拡散率で信号が受信できましたが、帯域幅500kHz、拡散率7のケースで信号が受信できませんでした。
距離1640m、2510mの場所はグラフの通りで、帯域幅が狭いほど、拡散率が大きいほど信号が届いている傾向です。
距離3670mの場所は二子玉川の楽天本社ビルの30階で、固定端末が見通せる場所です。帯域幅62.5kHz、125kHzでは拡散率7から12まで全ての拡散率で通信でき、帯域幅250kHz、500kHzでも拡散率が大きければ通信可能でした。
固定端末からの距離1750mのところに首都高3号線が横切っていて、それより遠い場所は首都高3号線の構造物越しの通信でしたが、それでも通信は可能でした。
通信距離と信号強度の関係
次は通信距離と信号強度の関係です。
固定端末と移動端末の距離1m、61mの2ヶ所はお互いが見通せる場所、その先は住宅などに遮られて見通せない場所で、一番遠い3670mの場所は固定端末が見通せる場所です。
見通せる場所と比較して、見通せない場所は信号強度が大きく下がることが見て取れます。
ある場所で通信した時、信号が検出できるかどうかは帯域幅、拡散率によって差があり、帯域幅が狭いほど、拡散率が大きいほど遠距離でも信号が検出できます。信号が届けば、信号強度は帯域幅、拡散率によってあまり差はありません。そこで次のように帯域幅、拡散率によって信号が検出できたかどうかをプロットしてみました。
横軸が端末間の距離で、帯域幅(bw)、拡散率(sf)を変えて、どの距離まで信号が検出できたかを示しています。このグラフを見ると、帯域幅が狭いほど、拡散率が大きいほど遠距離でも信号が検出できていることが確認できます。
ただし、次のEASEL社の資料にあるように、帯域幅(bw)が狭いほど、拡散率(sf)が大きいほど送信時間が長くかかり、その分消費電力も多くなります。通信可能距離と送信時間のバランスを考えて帯域幅、拡散率を決める必要があります。
測定結果(2)
測定結果(1)は固定端末の場所から南方向に移動しながら信号強度を測りましたが、次は東方向に移動して信号強度を測りました。東方向はマンション自身にも遮られ、500m程先に東京農大の校舎のビルがあるため、南方向に比べると条件は悪そうです。
上の地図は測定した場所とその地点での帯域幅125kHz、拡散率12の信号強度を色で示しています。南側と違い、東側で通信できたのは1300mまででした。固定端末を設置したのがマンション南側でしたので、マンション北側はマンション自体に遮られて通信できないかと思いましたが、信号強度は強くないものの通信は可能でした。
1300mを超えた場所は信号が届きませんでしたが、4000m離れたところに三軒茶屋キャロットタワーというビルがあり、その26階からは通信可能でした。
上の地図は固定端末の周囲を拡大したものです。固定端末はマンションの南側に設置しています。固定端末から近い2地点よりも、マンション自体に遮られない316mあるいは492m離れた地点の方が信号強度が強くなっています。逆に言うと、マンションに遮られる最初の2地点でも通信可能でした。
測定結果(3)
ダイポールアンテナとワイヤーアンテナの対向で通信距離と信号強度を測定しました。ゲートウェイに相当する固定端末にダイポールアンテナを、センサー端末に相当する移動端末にワイヤーアンテナを使っています。
住宅地で1.75km離れた場所でも信号を検出できました。
ダイポールアンテナ対向と同じ場所で測定した結果です。マーカーの色は1ケースの測定の中での相対値です。ダイポールアンテナ対向とダイポールアンテナ・ワイヤーアンテナ対向の測定は別ケースなので、色比較は意味がありません。
移動端末にダイポールアンテナを使った時とワイヤーアンテナを使った時の信号強度を比較しました。
信号が検出できれば、ダイポールアンテナでもワイヤーアンテナでも得られる信号強度は同じぐらいです。ダイポールアンテナの方が信号強度が低いところ、つまり遠いところまで信号が検出できます。
実際の利用シーンを考えると、ゲートウェイにダイポールアンテナを使い、センサー端末にワイヤーアンテナを使って、住宅地で1.75km離れても通信できるというのは十分な通信距離だと思います。
南方向、東方向の測定データーをまとめてAmbientで公開しています。
まとめ
今回、通信距離、帯域幅、拡散率を変えて、住宅地で信号強度を実測しました。
ダイポールアンテナ対向で、見通せない場所で2510m、見通せる場所では4000mの距離でも通信できるという結果が得られました。またダイポールアンテナとワイヤーアンテナでは、見通せない場所で1750mの距離で通信可能でした。ただし、通信距離や信号強度は帯域幅、拡散率などの単純な関数ではなく、地形、建物などの影響を受けます。
IoTシステムでLoRa通信を使う上では、現地での実測による確認、評価が必要です。