ソーラーカーレース鈴鹿は、1992年から毎年鈴鹿サーキットで開催されているソーラーカーレースです。2021年の大会には4時間耐久と5時間耐久の2つのレースがあり、5時間耐久レースにはソーラーパネルの出力などの規定からドリームクラス、チャレンジクラス、オリンピアクラスの3つのクラスがあります。

ソーラーカーレースは車体のメカ的性能、ソーラーパネル、バッテリー、モーターなどの電気系統の性能、運転技術に加えて、発電量と消費電力を管理するエネルギー管理の優劣がレースの勝敗を左右するそうです。2021年の大会で5時間耐久レース・チャレンジクラスで優勝したTeam MAXSPEEDさんは、ソーラーカーのエネルギー管理にAmbientを活用されているとのことで、電装を担当されている森地さんにお話を伺いました。

Ambient(以下「A」):クラス優勝、おめでとうございます。Team MAXSPEEDというのはどういうチームですか?

森地さん:ソーラーカーレース鈴鹿に参加していた鈴鹿工業高等専門学校の卒業生を中心にして、1997年に結成された社会人のチームです。私は同時期に大学のチームで参加しており、縁あって2007年頃に加わっています。皆さん本業があるので、主に休日に7〜8人が集まって活動し、レースのときには10人程度が参加しています。

「A」:ソーラーカーレース鈴鹿の5時間耐久レースというのは、どういうレースなのですか?

森地さん:文字通り5時間にどれだけ走れるかを競うレースです。バッテリーをフル充電してスタートし、ソーラーパネルで発電し、モーターで電力を消費しながら走ります。チャレンジクラスは2000年前半には10数チームが参加していましたが、今年は6チームが参加しました。

撮影:Zinn TAKEMOTO

鈴鹿サーキットは全長が約5.8km、高低差52mの起伏のあるコースで、今年は12時から17時までの5時間で54周、約313km走りました。平均すると約60km/h強で走っています。

今年はあまり天気がよくなく、発電量よりも消費量の方が多かったため、レース前半の予測では15時にはバッテリー電圧が低下して止まってしまうペースでした。

「A」:そこでエネルギー管理の出番になるわけですね?

森地さん:そうです。最初は1周5分のペースで走っていました。ペースを落とすと消費電力が減るのですが、モーターの特性により、ペースを落としすぎてもそれ程消費電力が下がりません。そこで1周5分半のペースに落として走行するようにしました。それでも16時には止まってしまう計算でした。しかし、レース後半から天候が少し回復したので、最後まで完走することができました。

「A」:ソーラーカーレースのエネルギー管理についてもう少し教えてください。

森地さん:バッテリー電圧とソーラーパネルの発電量、モーターの電流値を測定し、モーターの消費電力をどのくらいにして走ると効率的かを計算してドライバーにフィードバックします。鈴鹿サーキットは高低差があるので、上り坂では消費電力が多くなりますが、下り坂は少なくて済みます。1周するのに何Wh必要かを常に計算してドライバーに伝えています。

レースに参戦した初期の頃は、車内のメーターに表示されたバッテリー電圧、発電量、モーター電流をドライバーに携帯電話経由で読み上げてもらい、ピットでそれを聞いてパソコンに入力して管理をしていました。ドライバーはコースを見て、車を操縦しながらメーターも読み上げるので、相当の負担だったと思います。

その後、バッテリー電圧、発電量、モーター電流データをArduinoで測定し、Zigbeeで送信した時期があります。Zigbee通信は100mぐらい電波が届いたので、車がピットの近くに来た時はデータが受信できて、それ以外は携帯電話で読み上げてもらっていました。

今はバッテリー電圧、発電量、モーター電流データをmbedで測定し、さらにGPSを使って調べた位置情報と合わせてモバイルルータ経由でAmbientに送信しています。端から端まで3km近くあるコースのどこにいてもデータを把握できています。今年のレースの後半は少し天候が回復したと言いましたが、ピットのある東側は曇り、西側が晴れていたのですが、そういった状況も位置とデータを合わせて見ることで把握できていました。

上の図がデータを管理していたAmbientのパネルです。左のメーターで現在のバッテリー電圧、発電量、モーター電流値を確認します。左下の地図がコース上の発電量、右上のグラフがバッテリー電圧と発電量の推移です。青い線がバッテリー電圧で、12時からスタートし、17時に向かって徐々に電圧が下がっています。細かく見ると電圧は細かく上下していますが、これはコースの起伏の影響で上り坂と下り坂での電力消費量が違い、1周回る中でバッテリー電圧が上下するためです。Team MAXSPEEDのドライバーは優秀で、周回ごとの消費電力のブレがなく、1周目と2周目のグラフがほとんど同じ形をしていました。オレンジの線がソーラーパネルの発電量です。14時前から天候が回復して発電量が増え、14時半ごろに一旦曇りましたが、15時ごろからまた天気がよくなりました。15時半からのなだらかな低下は夕方にかけて日射量が減っていったことを示しています。こういったデータを見ながら、どこをどの程度の出力で走ればよいかを計算し、ドライバーに伝えていました。

「A」:データを収集、見える化、分析してレースに活用している様子がよく分かりました。ありがとうございます。ソーラーカーレース鈴鹿は今年で終わりになると伺いましたが、今後はどのようなことをしていくのでしょう?

森地さん:残念ですが、ソーラーカーレース鈴鹿は今年が最後になります。参加者の中には自主的にソーラーカーレース開催を企画している方もいますし、個人的にはソーラーカーレースはもちろんですが、それに限らず、データ分析を活用した活動に何らかの形で今後も関わっていきたいと考えています。

「A」:本日は、ありがとうございました。

森地さん:ありがとうございました。