いちごと苗の生産をおこなういちご農園でIoT、Ambientを活用している事例をご紹介します。

事業者概要

今回ご紹介する「こもろ布引いちご園」株式会社様は、浅間山の麓でいちごの栽培・販売、苗の生産、観光いちご園(いちご狩り)の運営をされています。

農業においても安定した栽培(製造)、価格の高い時期の収穫・販売(ジャストインタイム)が重要なのは他の業種と同じです。社長の倉本氏は「植物は環境条件に対応して正確に育つ。環境条件を把握すれば計画的な生産が可能だ」と言います。そのためにIoTを活用して温度、日射量、肥料の吸収量などを測定、Ambientに送って記録、可視化し、計画的生産に活用するという先進的な取り組みをされています。

ハウス内のデーター取得と管理

センサー端末はESP8266などのマイコンを使って独自開発したものです。
いちごやその苗を栽培するハウスは200vと100vの電源が供給され、隣接する管理棟にWi-Fiルーターが設置されています。IoTで共通課題となる電源とネットワークについてはあまり問題になっていないとのことでした。

上の写真はいちごの苗を栽培している棚(ベンチ)です。ベンチの下にESP8266を使ったセンサー端末を設置し、一定間隔で温度、湿度を測定し、Wi-Fi経由でAmbientに送信し、記録しています。

温度が一定の値を下回らないよう監視し、下回りそうな場合はヒーターで暖めるといった制御をしています。

上の写真は水と肥料の排液量を測定する端末です。給液量と排液量を測定し、その差分から植物が吸い上げた水と肥料の量を計算し、記録しています。日射量、CO2濃度と水と肥料の吸収量をモニターしているとのことです。下のAmbientのグラフからは、5時頃から給液を始め、最初は棚の水分が減っているため排液が少なく、7時頃は曇ったため吸収が弱く、排液が多くなり、その後は晴れて光合成が進み、排液が少なくなり、3時頃からまた排液が増えてくるといった植物の活動の様子が見て取れるとのことでした。

次の写真はハウス内の温度、湿度、CO2濃度、照度を測定しているセンサー端末です。「安価なCO2センサーを使っているが、精度の高い測定器の結果と比較しても、運用上問題ない結果が得られている」とのことでした。

現在はハウス内の1ヶ所で測定していますが、場所によって温度などの差があるので、測定場所を増やしたいとのことでした。
このように、高価な測定器を一つ設置するよりも、安価な測定器を数多く設置し、環境データーを面で捉えていく方法はIoT時代の有効なアプローチだと感じました。

ハウスにはネット接続されたセンサー端末のほかにも、照明や天窓の開閉制御などネットに接続されてない制御装置も多くあります。

まとめ

農業においてもデーターの活用で計画的な生産の取り組みや生産の安定化、省力化、省エネによるコスト削減など、改善余地が多くあります。同時に、収集するデーターの種類や処理方法など試行錯誤、仮説検証が必要な部分も数多くあります。

先進的な事業者様は、Arduino端末などの安価なマイコン端末とAmbientのようなIoT用クラウドサービスを活用して、自らの経験に基づくアイデアの仮説検証に取り組んでいます。

今後は、現時点ではネット接続されていない制御装置も含めた一体管理、外部の気象データーや市場価格データーなどのオープンデーターとの連携、環境データーと育成データーの学習によるいちご栽培AIの開発、いちご栽培IoT/AIシステムの販売など、大きな広がりが期待できると感じました。

取材にご協力いただいた「こもろ布引いちご園」株式会社の倉本社長様、高野顧問様に感謝いたします。