先日、気象センサーをベランダに設置し、データーを公開したところ、何人かの方からセンサーの精度や較正についてご意見をいただきました。これをきっかけに、センサーの精度と較正について考えました。
気象庁の観測値との比較
気象データーの場合、参考になるのは近くの気象庁の観測所の観測値です。私の場合、自宅が東京世田谷なので、気温、湿度、気圧が公開されている最寄りのアメダスの観測地点は東京の北の丸公園です。
自宅とは直線距離でも12.4km離れており、標高もアメダス東京が25mに対して自宅は51.6mです。仮に同じ条件、同程度の精度の装置を使ったとしても、この2地点の気温、湿度、気圧は、相関はあっても同じにはなりません。
アメダス東京と自宅の2016年8月30日から31日までの2日間の気温、湿度、気圧を比較すると、次のようになりました。
8月30〜31日は台風10号の影響を受けた時期ですが、アメダス東京と自宅との比較でいうと気温は自宅の方がやや高め、湿度はやや低め、気圧は自宅の方が5〜6hPa低めでした。アメダス東京と自宅の相関を調べると、気圧は相関係数が0.9993と非常に相関が高く、湿度の相関係数が0.9346、気温の相関係数が0.8366でした。
センサーそのものの精度の問題もあると思いますが、それに加えて気温は建物からの輻射熱、エアコンの排熱、車の排気熱など周囲の影響を受けやすく、逆に気圧は環境の影響を受けにくいという特性があるようです。
どういう結果を得たいのか?
どういう結果を得たいのかは気象モニターを設置した人の目的に依存します。私の場合は、自分の生活環境の気温、湿度などのデーターを知ることが目的です。従って、近くの観測所の観測値とある程度相関のあるデーターが得られていればセンサーとしては実用的な精度で稼働していると考えていいと思います。
絶対値については周囲の影響を受けるので、正しい値を得ることは難しそうですが、センサーが実用的な精度で動いているならば、得られた値はその観測地点の値と考えて実用上問題ないと考えました。
アメダス東京の測定値と自宅の測定値の相関を調べた結果、この二つの値は一次関数で対応付けられることは分かりましたが、この式を使って自宅の測定値を補正しませんでした。そもそもこの2地点の気温、湿度、気圧は同じではないので、アメダス東京の値に近い値を得ることが目的ではないと考えたからです。
IoT時代の較正
IoT時代には大量の、人によっては1兆個のセンサーがインターネットに接続されるようになると言われます。アプリケーションによって必要とされる精度も、かけられるコストも違います。職人的な技術者が手作業でレンズを研磨して神業のような精度を出すといったものにもロマンを感じますし、それが必要とされる領域も、今後も残るでしょう。センサーの較正についても、一つ一つ手間をかけて高い精度で較正することが必要な領域はたくさんあると思います。
一方で、大量のセンサーをネットに接続することで、従来よりも一つ一つのセンサーの較正の精度とコストを下げ、センサーネットワーク全体で外れ値を排除して精度を確保するような、IoT時代の新しい較正の方法が必要とされる領域も現れるのではないかと思います。